2021年 個人的音楽のまとめ①ベストアルバム~2021年リリースで特に良かった作品~
2021年 個人的音楽のまとめです。
- 新規で聴いたアルバム数:1,815枚 ※新譜・旧譜が含まれる
- 総再生曲数・時間 :14,487曲 1,505時間7分2秒 ※iTune集計による
去年もテレワークの一年だったので、よく聴きました。
2021年の私的嗜好というか傾向としては、
・オーケストラ、ビッグバンドなどの楽器数が多い
・作りこみすぎで音数が多い
・ライブインプロ一発取り作品はあまり馴染めなかった
・現代音楽、クラシックスの色を感じる作品
さて本題、2021年にリリースされたアルバムで特に気に入った8作品を選びました。
順位不同ですが、特に素晴らしかった4作品+その次に素晴らしかった4作品となります。
※当初9選したのだが、感想書くにあたり再度聴いたら「気のせいだった」が1作品あり、そちらを差し引いて8作品となりました。
・Caroline Davis - Portals, Volume 1 Mourning [Sunnyside]
本作でCaroline Davisは2年前の父親の死を受け焦燥し立ち直るまでの心身・環境の変化やプロセスをコンセプトにしているが、情緒的でもお涙頂戴でもエモーショナルでもない、ジャズ版舞台芸術のような多様性に満ちたオーケストレーションと即興を入り混ぜた作品になってる。このアルバムに対するストーリーは当初知らずに聴いて、音の深さと音感情の起伏、揺さぶられそうになる強さは何だろう?と不思議に思い、後からコンセプトを知り深く納得したのだ。このような背景を持ちつつ、音楽そのものについては、Alto Saxの彼女が率いるクインテットとストリングカルテットのスライドイン/アウトで絡む流れ、滑らかなテクスチャーと不安定で鋭い歪み音の交差によるモヤモヤ感、バリエーション豊かなリズムの切り替えし、それでも全体的には柔らかな膨らみのある軽快さ。素晴らしい作品でした。
carolinedavismusic.bandcamp.com
・Petter Eldh - Projekt Drums vol. 1 [Edition Records]
彼の作品、参加してる作品はいつも秀作だなあ。本作は全曲別のドラマーをアサイン、主役はドラマー。その上に、多種多様のミュージシャンによる装飾を施したエレクトニックでダンスミュージック的なアプローチをした作品になっている。彼の弦捌きはパンチとグルーヴ感を備え持ち、Squarepusherを彷彿させる無邪気さとノリの良さ、そして豊富なアイデアが詰まっている。
彼の感覚では、やりたい事(=コンセプト)とそれを実現するための構成(誰と組むかソロか)は頭の中で整理されているんだろう、ディレクションのセンスを感じる。
・GULFH of Berlin - GULFH of Berlin [ESP]
Gebhard Ullmann によるGULFH of Berlin、クレジットを見ずして「なんだ?聴き覚えある中間レイヤーに浮遊するSax演奏は?」でなるほどUllmannだったと知った。1曲目から揺らぎとうねりが錯綜し独特なリズムとは言えないようなビート感で波を作り上げている。即興なのだろうが、各パートとのシンクロ、ハーモナイズがタイミングよくしっくりと噛み合うし、不快な音階の重なりのまま持続したり、時にはふわふわと飛び散ってはまた戻るといった自由さがあるにも関わらず、曲としてまとまりを覚える。演奏も秀てるしメロディもいいし、即興というより不快ゆえに心地よい楽しいフリージャズと言いたい。
・Tyshawn Sorey, Alarm Will Sound – For George Lewis : Autoschediasms [Cantaloupe Music]
3曲で2時間という大作、ジャズというより現代音楽。Soreyのコンポーザーとして作品のようだ。正直なところ、この作品の良さを上手く言葉に落とせない...。
北極/南極の海洋で緩やか流れに動く氷河群を眺めているように複数の単調音が絶え間なく進んでは消え、一部は留まり、一部は動線からずれる、という動きを聴覚的に捉えているような。ただひたすら音群は前進しているが、終演に近づきしぼんで行く。音にある生命力を53分間聴いている感覚の1曲目。2曲目になると分散化され細切れで無秩序に音屑が飛び交う中で重層された持続音の渦に吸い込まれ、嵐の後の静けさと不安と落胆と希望でごちゃごちゃになった有様まで音として浮遊しつづけている。彼の手法をButch MorrisのコンダクションとAnthony Braxtonの言語音楽に絡めて語っている批評を見たが、あーなるほど(こりゃ難しいゎ)と思いつつ、感覚的に今の自分の中の混沌とした気持ちに妙にフィットした1枚であった。
・Alexander Hawkins Feat. Evan Parker + Riot Ensemble – Togetherness Music (For Sixteen Musicians) [Intakt]
室内現代音楽にEvan Parkerの循環器官演奏が合わないわけがない、何故今までなかったのだろうか?(自分が知らないだけかも?)と素朴な疑問と驚きが瞬間的に沸いた1曲目ですでに没入状態。Gérard Griseyの渦巻くような楽曲を思い起こした。現代音楽と即興ジャズの融合、共存という印象はあまりなかった。一方、ビオラ、チェロ、ダブルベースにおいては現代音楽チームと即興ジャズチームの双方におり微妙に異なる音質タイプの対比と重畳で厚みと深みが出てくるという面白さ、composed/improvisedの相違と対比が見える面白さ。難しいこと抜きにして、聴くだけでも次々と面白い発見があった作品でした。
alexanderhawkinsintakt.bandcamp.com
・Ethan Iverson, Umbria Jazz Orchestra – Bud Powell In The 21st Century [Sunnyside]
元Bad PlusのEthan IversonによるBud Powellトリビュート作品。21世紀にビバップのPowellがBig Bandをやったら、というところか。とはいえ半分をIversonのオリジナル楽曲である(Bud Powellに寄せてる)。Bad Plusの印象があるのでベタなジャズをさらっと演奏する彼の意外性を感じたり、Powellのソロパートがフォーンセッションで非常に華やいだ顔に変化ありで楽しむことができた。
・Eli Keszler – Icons [LuckyMe]
サウンドアーテイストならではの多種の音が多重レイヤーで流れる重厚さは興味深い。全体的にモヤがかったはっきりしない曲が続くが、リズム、パーカッションによる曲の筋立てはテクニカルにもアイデアとしてもユニークに組み立てられており、やはりパーカッショニストとして面白い人だと感じさせられた1枚。
・James Mainwaring – Mycorrhiza [Discus]
Saxプレイヤー James Mainwaringによる生態系をテーマにした作品。言われてみれば(どちらかというと植物の)生命誕生のアニメーションを観てるかのごとく、全体を通してChember Musicのように緩やかで牧歌的でフォークっぽさで曲は移り行く。Sax演奏は控えめながら時折即興が入るがメロディアスである。後半になると時に荒々しくなり、「私たちの肺は燃える、死にます」「燃えて、洪水を起こす」「地面は痛みを得ている」などと歌う曲もあり、即興劇を観に来ている不思議な感覚にもなる。音楽として耳を傾ければ味わい深さがある、そして何故か最後はフリージャズで締めるが、そこには「ハッと目を覚まさせられた」ということを意図してるのか?面白かった。